鼓月の和菓子コラム第十三回「-葩餅- 新年寿ぐ特別なお菓子」


-葩餅- 新年寿ぐ特別なお菓子

霜月の京都は寒さも深まり、木々が一気に色付き始め、紅葉の見ごろはもうすぐです。
そして、後から迫る師走の気配に、本年の終わりが目前であることを再認識する今日この頃。
皆様はこの1年をどうお過ごしになりましたでしょうか。
年末年始の近づくこの時期になると、和菓子屋では「葩餅(はなびらもち)」の準備を始めます。京都に由縁のあるこの「葩餅(はなびらもち)」という和菓子を皆様はご存知でしょうか。
この記事では、「葩餅」とはなにか、またその由来や歴史をご紹介いたします。

「葩餅」とは?

通称、葩餅(はなびらもち)と呼ばれていますが、正式には菱葩餅(ひしはなびらもち)と言い、お正月を代表する和菓子と言われています。

甘く煮たごぼう、味噌を混ぜ込んだ「みそあん」、菱形で紅色の餅を、円形の白い餅もしくは求肥で、二つ折りにして包んだ形が一般的ですが、和菓子屋によってはゴボウを味噌に混ぜ込んだり、紅色の羊羹を包んだりと様々です。白くて丸いお餅は梅の花をかたどったといわれています。

「葩餅」はなぜお正月に食べるのか?

「葩餅」は平安時代の新年行事「歯固めの儀式」を簡略化したもので、以来600年にもわたり宮中のおせち料理の一つとして考えられています。そのためお正月には欠かせないものとして、長きにわたり人々に親しまれてきました。

平安時代の新年行事「歯固め」

そもそも「歯固めの儀式」は、「歯」には「齢(よわい)」=年齢の意味があることから、正月に堅いものを食べて歯を強くし、長寿を願うという行事で、通ずる行事として、古来6世紀の中国の年中行事がまとめられたという『荊楚歳時記』に、正月に堅い飴の「膠牙餳(こうがとう)」をすすめたことが記されているそうです。
日本では、紀貫之がしたためた『土佐日記』の中に記載があることから、平安中期には正月の恒例行事になっていたと考えられています。

儀式の内容としては、長寿を願い、餅の上に赤い菱餅を敷き、その上に猪肉や鮎、大根、瓜などをのせて食べる、というものでしたが、徐々に簡略化され、餅の中に食品を包んだものを配るようになりました。これを”宮中雑煮”と呼んだそうです。
さらに簡略化は進み、鮎は牛蒡に、雑煮は餅と味噌あんでかたどったものとなりました。これを「菱葩(ひしはなびら)」と呼び、宮中のおせち料理として長年ふるまわれてきました。ゴボウを用いるようになったのは、土の中にしっかり根を張る植生から、「家の基礎がしっかりしている」ことや「長寿」の象徴として非常に縁起が良いためだそうです。

お菓子としての「葩餅」誕生のきっかけ

現在のお菓子の形で親しまれるようになったのは明治時代からで、千利休を祖とする茶道家元である、裏千家家元十一世玄々斎が宮中に呼ばれて「菱葩」を頂戴したことを機に、初釜(新年一番最初の茶会)の時に使うことを許可され、新年のお菓子として使われるようになりました。

茶道の初釜と「葩餅」

初釜とは、年が明けて最初に行われる茶会のことを指し、1年の稽古初めとなる大切な茶会です。 初釜は「年が明けて初めて釜に火を入れる」ことを意味しており、元旦の早朝に汲まれた水(若水・わかみず)を用いたお茶が振る舞われます。その際に、お茶請けとして欠かせないのが「葩餅」です。
先に記したように、玄々斎が、初釜でいただくお菓子として許されたことから、明治以降裏千家の初釜で欠かせないものとなり、茶道を嗜まれる人々を通じて広まり、日本各地の和菓子屋さんでも求められるようになり、一般の人たちにも広まっていったという歴史があります。

もう一つのお雑煮「葩餅」

また、「宮中雑煮」と呼ばれていた名残から、京都では白味噌を使った野菜入りの汁物を”お雑煮”というだけでなく、「葩餅」をもう一つの”お雑煮”と呼ぶそうです。迎春には欠かせない食べ物の一つとして、今なお京都の人々には大切にされています。

現在でも親しまれる「葩餅」

今日でも、お正月には京都の和菓子屋の店先に「葩餅(はなびらもち)」が並び、新年のお祝いにと、たくさんの人々に親しまれています。それぞれの和菓子屋によってさまざまに味や素材に違いがあり、職人のこだわりが光る繊細なお菓子です。

鼓月の葩餅は、やわらかい求肥のお餅の中に、職人の炊き上げたこだわりの餡を使用した紅色の菱形の羊羹を重ね、じっくりと蜜炊きした牛蒡を挟み、白味噌仕立ての餡をいれております。味噌餡の甘みと少しの塩味に優しい舌触りの求肥が、口の中で絶妙に調和します。ご家庭での新年のお茶請けにぜひご賞味ください。


葩餅はなびらもち

蜜漬けごぼう、菱形羊羹、白味噌餡を求肥餅で包んだ、
京の正月を寿ぐ祝菓子です。


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